2016年セミナー

2016年度セミセミナーの記録

セミの抜け殻の見分け方と、セミの調査で分かってきたこと

  • 日時:2016年6月26日(日)14:00~18:30
  • 場所:中央区立環境情報センター 研修室2

プログラム

1部 なぜ、セミの抜け殻しらべなのか? 田邉貞幸

2部 セミの抜けの見分け方 (実習)田邉貞幸・小久保雅之・中村忠

3部 パネルディスカッション

調査で何が分かってきたか?

クマゼミの過去・現在・未来 コーディネーター 田邉貞幸 

■セミの抜け殻しらべの方法と調査結果の概要:小久保雅之

■「神戸市東灘区渦森台の調査結果から」:八巻晤郎

  1. 調査場所と生息するセミの関係
  2. セミの羽化と自然災害・2014年の異変

■ 首都圏の調査結果の概要と、日比谷公園の調査からの考察:小久保雅之

■ 蕨市民公園のクマゼミの動向と NACOT会員アンケートによるクマゼミ分布調査:堀内伸一郎

■ 関東地方南部におけるクマゼミの分布拡大の可能性について:池田正人

【総合討論】クマゼミの過去・現在・未来

【質疑応答】

共催:NACS-J:公益財団法人日本自然保護協会

NACOT:NACS-J自然観察指導員東京連絡会

セミの抜け殻しらべ市民ネット


(1)「神戸市東灘区渦森台の調査結果から」

八巻晤郎 (六甲山自然案内人の会) 

 1. 調査場所と生息するセミの関係

調査した3箇所の位置関係は添付の地図のようになるが、1970年代に宅地として造成されているので、住宅地となってからでも50年近くの年月が経っている。

アブラは、声・姿・抜け殻のいずれもを3地点で容易に確認できるが、クマは、北公園では天下だが、

声は寒天橋ではまだしも展望台ではほとんど聞かなくなる。姿も同様、ほとんど見ることはない。

2012年~2015年、毎年7/20前後から8/20前後にかけて、調査場所で4~6回の抜け殻採集を行い、調査場所別に種類、♂♀を集計した。年次ごとの集計表を比較、調査メモによる当時の天候推移や環境変化等に注目しながら集計数値の変動について考察した。

 

調査結果

*クマはクマゼミ、アブラはアブラゼミ、ヒグラはヒグラシ、  その他は、ミンミンゼミ、ツクツクボウシ、ニイニイゼミの合計

1-1. 渦森北公園

植栽はすべて他所から持ち込まれた樹木でそれらの根についていたクマゼミが羽化し繁殖したものと思われる。アブラ、ニイニイが周囲の山地から飛来する程度で典型的なクマゼミ王国である。

1-2. 寒天橋道

杉木立の両側斜面にはシダが多く、その葉裏がヒグラシにとって格好の羽化場所となっている。

雑木も多いが低木がほとんどで樹下は湿っぽい。アブラゼミ、ミンミンゼミの抜け殻は見つかるがクマゼミは声だけ。クマゼミの抜け殻は2015年になってようやく1個みつけた。ヒグラシ王国といえる。

1-3. 渦森展望台公園

山を背景にアブラゼミの勢力が強いのか、公園の南側には人家が迫っているのにクマゼミはいない。東側の谷筋にたくさんいるヒグラシも日照が良すぎるせいか姿を見かけない。アブラゼミ王国だがミンミン、ツクツク、ニイニイが他の2箇所より多いのも特徴。

 

2. セミの羽化と自然災害・2014年の異変

この年は7月末から8月中旬にかけて大雨を伴った台風11/12号が迷走しながら上陸してきた。この大雨で8/7は大雨警報が発令され、われわれの調査も中止。ほどなく渦森台下の住吉川沿いでがけ崩れが発生し道路が通行不可となり、13日は迂回路を通って渦森台へ行かねばならなかった。調査地一帯は高台のため雨水は恐ろしいほどの勢いで側溝、道路を流れ下ったらしい。セミの抜け殻もその影響を受けて樹木の枝葉に留まることができず流されてしまったものが多数出た。この期間は、セミの羽化が最盛期を迎える時期でもあり、その様子を年次別に比べてみた。

*通常、渦森台周辺では7/20頃から羽化が活発になり、♂の羽化ピークが7/25~30日、♀は

それから一週間ほど遅れる。ところが2014年は♀のピークが7/30に早まったのである。

*セミの抜け殻が流されたのはやむを得ないことだが、♀がそれ以前に大量に羽化していた

ことを確認していた事実は大いに注目すべきではないかと考えている。


(2)蕨市民公園のクマゼミの動向

堀内伸一郎

初めに:2010年セミの抜け殻しらべ市民ネット(以下セミがらネット)の情報で、蕨市民公園で当時首都圏では珍しくクマゼミの鳴き声が聞こえることを知り、実際にどれくらいいるのか地元の日本自然保護協会自然観察指導員3名で調査を開始した。

調査回数は夏休みの毎土曜日8回とした。現在は市内の親子も参加している。

2010年から2015年まで6年間同じ手法で調査したのでその結果を報告する。(セミの抜け殻で作ったセミの抜け殻の帽子をかぶる筆者)

※蕨市民公園はJR京浜東北線西川口駅と蕨駅の中間に位置する1985年開園の公園で防災公園としての側面も持つ。

また、関西出身の筆者は夏にクマゼミが鳴くのは当たり前と思っていた。

1.調査方法:蕨市民公園で特徴的な3地点を選定

 A:日当り、照り返し強、木はまばらで剪定により低い

 B:木はやや密で下草は少ない

 C:北側、木がまばらで下草少ない

手作りの捕り棒を用い高さを約3m以下に限定し調査空間を一定にした。

右図に調査方法とクマゼミの特徴を示す。

※中央から外へ:クマゼミ・ミンミンゼミ・エゾハルゼミ

2.調査結果

・Aではクマゼミ比率(クマ率)は初年度10.4%→最高28.3%(2014年)と5年で約3倍になった。

・Bでは調査初年度は0%だったクマ率が年々上昇し2015年には4.8%に達した。

・セミの出てくる時が早くなってきている。

・同じ公園でも場所によってクマゼミの比率が変わる。

・クマゼミはアブラゼミより早く出てきて、早く出てこなくなる。


3.考察:・オスはメスに先行して出てきている。

・クマゼミは元々九州や日本の西部に生息するセミで温暖化や乾燥化に強いといわれる。

・蕨市民公園は約30年前に開園した防災を兼ねる公園のため周囲を常緑樹で囲まれている。この常緑樹の根っこについてきた幼虫が温暖化により定着した可能性が高い。

※右図は35年前からの浦和の気温変化。

・調査開始当初蕨市民公園以外では声は聞こえず、飛び地状態になっていたのでクマゼミ自身が自力で生息範囲を広げてきた可能性は低い。

・温暖化によりさらに増え、拡散する可能性がある。クマゼミの声は蕨市民公園から近隣の公園に少しずつ拡散してきている。大阪・名古屋の市街地では数十年前はクマゼミが少なかったようだが現在ではクマゼミだらけになっているらしい。

・グラフから出てくるセミの数はその年の夏の天候に影響を受けているように見える。特にアブラゼミ。

 

4.今後の課題:

・調査期間はクマゼミの寿命より短く、今後も継続的な調査が必要。

・蕨市民公園は防災を兼ねる都市公園であり毎年のように剪定などの管理が行われ、外的撹乱要因も多い。

・参加小学3年生の自由研究【蕨市民公園のセミしらべ】は3年連続教育長賞、科学教育振興賞等を受賞している。今後後継者として育てていきたいと思っているが・・・。

・公民館と協同し小学生対象の【セミの抜け殻観察教室】、【セミの羽化観察会】を続けてきたことによりクマゼミの知名度は上がってきているが、一方で子供たちによる抜け殻や幼虫の採集などにより今後の調査の精度が下がる可能性がある。今のところ全体の数量は減ってもクマゼミの比率(クマ率)には大きな影響はないように思う。

終わりに:セミがらネットに参加することにより抜け殻でセミの種類や雄雌を同定できることを知り、本調査を始めるきっかけになった。いろいろご指導いただいた諸先輩とともに蕨市民公園のクマゼミに感謝したい。また、本調査が地球温暖化問題を考える一助となれば嬉しく思う。(2017.8.18報告書用にリメーク)

 

首都圏のクマゼミ分布調査-自然観察指導員東京連絡会(NACOT)、セミがらネットの情報から-

2011年から首都圏のクマゼミ情報(抜け殻、声、成体)を募集しその分布を調べている。都市公園から比較的自然が豊かな玉川上水近辺でも抜け殻が見つかるようになり、温暖化の影響が懸念される。

サイト別では蕨市民公園Aが群を抜いてクマ率が高く、天気のいい日は日が差すとともにシャンシャンシャンシャンと大合唱が始まる。果たして東京も大阪のようにクマゼミだらけになるのか、今後の展開が気になるところである。

(2017.8.18報告書用にリメーク)


(3)関東地方南部における分布拡大の可能性  

2009年~2013年の調査結果とその考察

池田正人

2009年から2013年まで神奈川県東部、東京23区を中心に生息状況の調査を実施した。

調査の方法

定性調査

・期間:2009年~2013年

・時期:7月下旬~8月下旬

・午前6~11時に調査地点で10分間以上留まり鳴き声聞取りと目視観察。

・結果をCC: 非常に多い(20頭以上),C: 多い(20頭未満10頭以上),R: 少ない(10頭未満5頭以上),RR: 非常に少ない(4~3頭),個体数が2頭以下の場合はその数で記録。

・確認できた他種も記録。

定量調査(脱皮殻調査)

・場所:関東地方11か所と比較検討として名古屋市内3か所。

・1時間(一人)で採集できた数を記録。

 

結果(定性調査) 次項 図1参照

・1箇所で複数のクマゼミが確認されたのは,JR東海道本線・藤沢~東京間の東南側(海側)に集中しており,東京湾岸の埋立地を千葉市まで続いている。

・代々木公園を中心とした地域、埼玉県蕨市民公園,千葉県木更津市太田山公園周辺でも鳴き声が多く聞かれた。

・自然林(照葉樹林,二次林)で複数個体の合唱があったのは,横浜市保土ヶ谷区以南の地域であり,横浜駅市神奈川区以北で複数個体の鳴き声が聞かれたのは,すべて公園など人工的に創出された箇所であった。

 

結果(脱皮殻調査)

表.1 関東地方の12箇所と名古屋市内3箇所における脱皮殻の採集数   *数字は、脱皮殻の採集数


種毎の数字は採集個体数を示す

考察1(分布の拡大:近年の記録から)

1980年代前半までの分布

・神奈川県平塚市西部と三浦市城ケ島を結んだ線の西南側

・東京都渋谷区代々木公園(人為的?)

1990年代の分布拡大

・横浜市金沢区(横浜市1990年調査;鳴き声)

・横須賀市和田(1997年)、横浜市金沢区、磯子区、中区(横浜市1998年調査;鳴き声)

・東京都大田区平和島公園(大田区1997年調査)

・東京都江戸川区葛西臨海公園(池田1996)

考えられる拡大の様子

・横浜市中部以南の地域では,1980年代以降徐々に城ヶ島から北上,あるいは平塚市西部から東進して、分布を広げてきたと考えられる。


・お台場地区や港区内では1994~1995年には,ほとんどクマゼミの声は聞こえなかったことから,この時点では都内の生息地は代々木公園も含めて分布の島となっており,横浜方面から次第に東進した個体群とは考えにくい。・都内の状況は1995年から江戸川区葛西臨海公園で、また1997年には大田区平和島公園でクマゼミの生息が確認されている。

 

考察2(クマゼミが増えた要因)

地球温暖化

・卵のふ化までの積算温度の上昇→梅雨時のふ化時期が重なるようになった

緑の質の変化

・都市公園などクマゼミの好む開放的な樹木環境への変化

人為的な導入

・公共工事等の緑化でクマゼミ生息地からの樹木の大量導入による幼虫の移動

・趣味による放虫

考察3(気温・日照時間との関係)

表.2 過去30年(1983年~2012年)における年平均気温と8月の平均日照時間

*1東京(江戸川臨海)の平均日照時間は,一部データ欠落のため1983~2000,2010~2012年で算出

*2辻堂のデータは1993~2012年

 

★クマゼミが生息するには、下記のような条件が考えられる(図.と表2.より)

・年平均気温15℃以上

・8月の日照時間 200時間

・最暖月の平均気温が高いことが条件ではないようだ

考察4(ミンミンゼミとの関係)

・クマゼミとミンミンゼミの鳴き声における基音が類似(林・税所 2011)

・関東地方でクマゼミが比較的多いところではミンミンゼミが少ない。(表1.)

・城ケ島、茅ケ崎中央公園では、クマゼミが最優占種となっている。丸山台公園では、クマゼミがアブラゼミとほぼ同じくらい多く、ミンミンゼミが著しく少ない。


・両種がすみわけできるニッチがなければ、一方を駆逐する方向へ進むかもしれない。現在クマゼミが多いところではこの傾向を注視していく必要がある。