(1)首都圏

図-2に首都圏の各調査地における2016年の種構成を左上からアブラゼミの比率の大きい順に示した。

首都圏16調査地のうち14の調査地でアブラゼミが50%以上を示した。

図-2 調査地別セミの種構成 (首都圏: 2016年 アブラゼミ比率の高い順)

アブラゼミ以外の構成比はそれぞれの調査地で特徴があり、

ミンミンゼミの比率が10%以上は、

  • 外堀公園(71%)
  • 石神井公園(58%)
  • 北の丸公園(29%)
  • 大木島公園(21%)
  • 大泉中央公園(11%)の5調査地

ニイニイゼミの比率が10%以上は、

  • 小山田緑地(50%)
  • 野川公園(34%)
  • 光が丘公園(34%)
  • 大木島公園(25%)
  • 代々木公園(18%)
  • 日比谷公園(14%)の6調査地

ツクツクボウシの比率が2%以上の調査地は、

  • 小山田緑地(7.1%)
  • 小石川植物園(4.7%)
  • 野川公園(4.3%)の3調査地であった。

ヒグラシが採取されたのは2調査地で、

  • 国分寺X山(8.0%)
  • 山田緑地(2.0%)であった。 

また、クマゼミが採取された調査地は

  • 蕨市民公園(10.2%)
  • 代々木公園(7.4%)
  • 葛西臨海公園(2.5%)
  • 横浜公園(1.2%)
  • 大泉中央公園(0.04%)であった。

一つの調査地について複数サイトで調査し、異なる構成種を示したケースとして、

  • 野川公園の2サイト
  • 小山田緑地3サイト中の2サイト
  • 蕨市民公園3サイト中2サイトを図-3に示した。

同じ公園の中での種構成の違いは、樹木の種類、地面の硬さなどの環境の違いによる可能性が考えられる。

一つのサイトの中でも、特定の種が多い場所や樹木があることに気が付いているケースもあり、今後、さらにサイト内を分割して調査したり、それぞれの樹木の枝が広がる範囲などで調査して比較することにより、新たな発見があるかもしれない。

図-3 同じ調査地内での調査サイトによる種構成の違い


<継続調査できたサイトの抜け殻数、種構成の経年変化>

図-4、図-5に2009年から2016年までの8年間、あるいは2010年から2016年までの7年間、継続して調査ができたサイトの抜け殻数と種構成の経年推移を示した。

抜け殻総数は小石川植物園コアサイトや日比谷公園首賭けイチョウ前のように比較的年ごとの変動が小さく、最も多い年の抜け殻数が、最も少ない年の2倍に達していないサイトがある一方で、2倍以上、場合によっては葛西臨海公園ホテル裏サイトのように10倍の差が出たケースもあった。

抜け殻数の変動は、気象の変化など地域全体としての環境変化だけでなく、樹木の剪定や下草刈り、公園管理の為の工事(手すりやベンチの設置)など、調査地やサイト特有の環境の変化、あるいは調査担当者の交替、調査に関わった人数の変化に伴う調査範囲(手の届く範囲など)の変動、他者によって抜け殻が採取されたための減少など、色々な要因が入っている可能性が考えられる。

抜け殻数の増減が一定期間(年)毎に繰り返している場合、産卵から羽化までの期間(年数)がそのサイクルに関係している可能性がある。

例えば、ある種のセミが産卵から羽化まで4年かかるとすると、抜け殻の数(羽化数)が例年より多かった年は産卵数も多いと考えられ、その4年後に、再び、抜け殻が多く採集される可能性がある。

また、抜け殻の数(羽化数)が例年より少なかった年の4年後に、再び、抜け殻の採集数(羽化数)が少ない年が来ると予測される。

典型的なものとして米国の13年ゼミや17年ゼミなどの素数ゼミは有名である。

日本のセミについては産卵から羽化までの期間は様々な説があるが、アロエ等での飼育下では幼虫期間(孵化から羽化までの期間)は

  • ミンミンゼミ2~4年
  • ツクツクボウシ1~2年(主に2年)
  • アブラゼミ2~4年
  • クマゼミ2~5年
  • ニイニイゼミ4~5年(主に4年)とされている

この情報によれば、それぞれのセミで幼虫期間の年数は一定ではないが、ミンミンゼミ、アブラゼミはどちらも幼虫期間が3年のケースが一番多く4年後が次に多かった。

つまり産卵から孵化までの約1年を加え、抜け殻数の多かった4年後又は5年後に再び羽化の多い年が来る可能性があると考えられる。

また、ニイニイゼミは産卵の年の秋には孵化し、幼虫期間が主に4年であれば、4年の周期で抜け殻の多い年少ない年が繰り返されることになる。

そういう観点も含め、継続調査ができたサイトのデータを見てみることとする。


http://www003.upp.so-net.ne.jp/cicada/aroe00.htm(村山壮五:蝉雑記帳)

図-4 7~8年間継続調査ができたサイトの経年変化(首都圏-1)


<外堀公園、日比谷公園の経年変化>

外堀公園、日比谷公園で7年以上継続調査ができたサイトの経年変化を図-4に示した。

外堀公園の二つサイトはミンミンゼミの比率が高く、ミンミンゼミの経年変化を読み取ることができる。

アブラゼミ、ミンミンゼミ、どちらも明確な周期性は見られていない。

2015年までのデータでは、3年毎にミンミンゼミが多くなるパターンが見えていた。

これはミンミンゼミの幼虫期間が3年のケースが多いことと一致せず、産卵から孵化まで1年、幼虫期間2年の計3年の可能性を示唆しており、これが正しければ2016年は2015年より減少すると予想していた。

しかし、予想に反して2016年のミンミンゼミは2015年に比べ大幅に増加した。

セミの幼虫期間の数年には幅があり、何年で羽化するかは地中の温度などの条件や、栄養源となる樹木の種類によって変わる可能性も考えられ、様々な要因で変化するのかも知れない。

日比谷公園の3サイトのうち、首賭けイチョウ前サイトは2015年の日比谷公園の調査サイトの中で最も抜け殻数が多く、アブラゼミ、ニイニイゼミ、ミンミンゼミの他、少数ではあるがツクツクボウシも採取されている。

抜け殻全体としては多い年、少ない年が繰り返されているように見えるが、明確はパターンは示していない。

2015年、2016年とニイニイゼミ、ミンミンゼミが減少しており、今後の変化に注目したい。

野外音楽堂東サイトは、2010年をピークに2015年まで抜け殻数が減少している。

調査者の印象として調査を介した2009年、2010年頃は下草刈や樹木の剪定があまりされていなかた。

その頃は2008年のリーマンショックによる景気低迷の影響を受け、公園の管理費が削減されていた可能性がある。

それが2011年頃から景気も回復して、下草刈りや樹木の剪定作業がしっかりされるようになり、結果として産卵できる枯れ枝が減り、地面が乾燥化するなど、セミにとって厳しい環境への変化があったのかもしれない。

公園の管理とのセミの羽化数との関係が示唆される。

ニイニイゼミが2014年2015年と続けて少なくなっていて、このまま減ってしまうことが心配されたが、2016年は復活した。

最近のニイニイゼミの減少は首賭けイチョウ前、小石川植物園、代々木公園でも同様の傾向が見られるが、その要因が共通のものなのか、サイト特有のものなのかは不明である。


日比谷パレス裏サイトは2011年まではツクツクボウシが多かった。

このサイトでは2010年から2011年の間にトウネズミモチの大木が伐採されている。

その木にツクツクボウシや他のセミがよく産卵していた可能性が高い。

今も伐採跡からヒコバエが生えていることから、根が生きていると考えられ、伐採される前に孵化し地中に潜った幼虫は生き延びることができたと思われる。

ツクツクボウシは幼虫の期間が1年または2年と言われており、幼虫期間が3年前後と考えられるアブラゼミ、ミンミンゼミに比べて早期から伐採の影響が出てきていると考えられる。

またアブラゼミ、ミンミンゼミは伐採されたトウネズミモチ以外の周囲の樹木に産卵したものが孵化後、このサイト内に落ちて育っている可能性もある。

図-5 7~8年間継続調査ができたサイトの経年変化(首都圏-2)


<小石川植物園、代々木公園、葛西臨海公園、大泉中央公園、蕨市民公園の経年変化>

7年以上調査を継続した小石川植物園、代々木公園、葛西臨海公園、大泉中央公園、蕨市民公園の2サイトの種構成の経年変化を図-5に示した。

小石川植物園では2012年から2014年の間ニイニイゼミの減少とツクツクボウシの増加傾向が見られていたが、2015年、2016年はツクツクボウシが減少した。

代々木公園は2012年から2015年はアブラゼミが奇数年に多いパターンで増減を繰り返していたが2016年は2015年より若干増加した。

2013年にアブラゼミとニイニイゼミはピークを示し、その後減少したが2016年はニイニイゼミも増加した。

2014年の調査終了後にデング熱のヒトスジシマカ(藪蚊)の媒介による感染が起き、対策が講じられた。

その影響がニイニイゼミの2014年と2015年の減少に影響している可能性も考えられる。

一方で、クマゼミの数が増加しており、今後の推移と生息範囲の拡大が注目される。

葛西臨海公園ホテル裏サイトも以前からクマゼミの多いサイトとして注目されている。

アブラゼミは毎年増減を繰り返しながらも増加の傾向がみられる。

2014年~2016年にミンミンゼミが増加しており、クマゼミがそれほど増えないこととの関連も注目したい。

大泉中央公園はアブラゼミ、ミンミンゼミが増加傾向で、ツクツクボウシは減少傾向である。

アブラゼミは2010年以降、代々木公園と同様に、奇数年が多いパターンで毎年増減を繰り返している。

蕨市民公園の3つのサイトのうち7年以上継続調査している2サイトの種構成の経年変化を示した。

蕨市民公園の調査については、巻末の「2016年セミ・セミナー記録」を参照頂きたい。