2009-2016年まとめ

7-1. 2016年は29調査地、54サイトで40,047個の抜け殻を採取、鑑別した。

2009年から2016年の8年間の調査地数、調査サイト数、収集した抜け殻数は、 若干の増減はあるが、29~36調査地 54~68の調査サイトで調査が行われ、毎年3~4万個前後のセミの抜け殻を採取している。

 

7-2. 各調査地・サイトの種構成は、同じ公園内や距離的に近い場合でも異なっていた。

  1. 2016年の首都圏では16調査地29サイトで調査が行われた。16調査地のうち14の調査地でアブラゼミが50%以上を示し、アブラゼミ以外の種構成はそれぞれの調査地で特徴があった。一つの公園で複数のサイトで調査した場合、同じ公園内でも、サイトにより種構成が異なることも多かった。
  2. 阪神地区では6調査地11サイトで調査が行われた。処女塚古墳は採集した全ての抜け殻がクマゼミであった。渦森台4丁目の300mほどしか離れていない3サイトはそれぞれ種構成が全く異なった。寒天橋付近や六甲山記念碑台など、自然環境の豊かな調査地、サイトではヒグラシ主体でクマゼミがいないなど、調査サイトの環境の違いにより、種構成が異なっていた。

 

7-3. 抜け殻の数は年毎に大きく変動することが多いが、種構成が変動することは少ない

毎年継続して調査している調査地、サイトの抜け殻数は毎年変動し、一番少ない年と一番多い年で10倍程度の差があるサイトもあった。

一方で、種の構成比の変動は小さいが、ニイニイゼミが経年的に減少したり、ミンミンゼミが経年的に増加するサイトもあった。

年毎の抜け殻数の変動はそのサイトで構成比の高い種の変動を反映していると考えられる。

例えば、アブラゼミが毎年増減を繰り返している調査地・サイトは多い。

アブラゼミの場合、産卵から羽化までの年数を4年と仮定すると、増減が4年のサイクルで繰り返されることが予測された。

一定期間の間ではその傾向はみられたサイトが多かったが、7年以上継続して4年毎の増減となることは少なく、羽化数の増減は様々な要因で変化することが考えられ、特に年毎の増減の差が小さい場合には、パターンの逆転が容易に起きることが推察される。

 

7-4. 人為的な環境変化(工事や樹木の伐採)は抜け殻数や種構成を変動させる。

抜け殻数の経年推移には、工事や樹木の伐採などが影響して、減少していると考えられるケースもあった。

また、下草刈や樹木の剪定がしっかりされることにより、抜け殻の数が減ってきている可能性が考えられた。

 

7-5. 首都圏でクマゼミの増加傾向があり、抜け殻が採集されていない調査地でも声が確認されている。

首都圏ではクマゼミは蕨市民公園、代々木公園、葛西臨海公園、大泉中央公園、横浜公園で採取されていて、その多くで増加傾向がある。

また日比谷公園を始め、都心の多くの公園では抜け殻の採取はなくてもクマゼミの声が確認されており、首都圏全体としても増加していることが予想される。

阪神地区では処女塚古墳のように古くからの緑地にもかかわらず、クマゼミの抜け殻しか採取されなかった場所もあり、現在クマゼミが増加しつつあるサイトでのクマゼミの動向が注目される。

 

7-6. アブラゼミの羽化時期は首都圏と阪神地区で差がある。

2011年の兵庫県赤塚山北公園と日比谷公園のアブラゼミの羽化時期の比較から、羽化時期の違いが確認された。

その後、赤塚山北公園と日比谷公園など首都圏3サイトでのアブラゼミの羽化時期を比較し、2015年までは首都圏での羽化時期が早まり、その差は小さくなってきていた。

しかし、2016 年は赤塚山北公園の羽化時期が早くなり、その差は再び広がった。

差が出ている理由は今のところ分かっていない。

 

7-7. 下草がなく地面が露出しているサイトはアブラゼミやクマゼミが多く、ニイニイゼミやミンミンゼミは少なかった。

この結果は、アブラゼミやクマゼミは下草が少なく、地面が露出し、乾燥した環境でも棲息できること、ニイニイゼミやミンミンゼミは地面が露出した乾燥した環境を好まないことを示している可能性がある。

 

7-8. 抜け殻しらべで注意すべき点・今後の課題

  • 調査範囲(面積・高さなど)・調査方法をできるだけ固定することで調査の精度が上がる。
  • 抜け殻数や種構成に大きな変化や経年的変化があった場合、その原因をサイト毎に検討する必要がある。
  • 全体的な環境変化の影響か、個別の人為的は環境変化の影響かの見極めが重要。
  • 産卵・孵化・幼虫期・羽化、成虫期のどの時点の環境変化が抜け殻数に影響するかの検討が必要。
  • 調査地の歴史的背景(新しく作られた公園か古墳や武家屋敷跡かなど)とセミの種構成の関係にも注目する必要がある。

 

以上、2016年の調査結果および、2009年から2016年まで8年間の調査結果から、調査サイトの環境とセミの種構成との関連が少しずつではあるが分かってきているものの、よく分からないことは多い。

今後ともできる限り調査を継続することで、新たな発見を期待したい。

そのためには、できるだけ統一した手法での調査を継続すること、セミ以外の環境変化の記録も重要と考えられた。

また、より多くの地域、環境の異なる調査地のデータを得ることにより、新たな発見、考察が期待できると考えている。